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急激な社会の変動は食生活に深く静かに影響を及ぼしています。食事内容や食生活のサイクルが健康に大きな影響を与えることが多方面から指摘されています。政府も食育推進を政策のひとつの柱として重要視しています。医療においても肥満やU型糖尿病の世界的な蔓延を改善することが急務とされ、メタボリックシンドロームとしての概念も示され、食生活改善が重要視されてきました。 歯周病や虫歯は関連する細菌が特定され、それを如何にコントロールするかが治療の主体になってきました。多くの病気は遺伝子的なレベルで解析が進み、外的な侵襲に対してどのように反応するかという体質も、遺伝子的な次元で語られるようになってきました。そこで改めて強調されることは、体質だけで発病するのではなく、後天的な環境、生活習慣、食事などと深く絡んでいる点です。歯科においてもペリオドンタルメディスンとして全身的な健康状態と歯周病との相関が精力的に研究され、双方向に関連するデータが報告されています。 食生活の持つ影響は虫歯の発生はもとより、歯周病治療における効果を左右する大きな因子となります。しかも私たちが診療室で目にする病態になるまでには、生活習慣が大きくかかわっているのです。食生活は虫歯や歯周病の発症にも深くかかわり、その改善は治療効果を確かなものにするために重要なものと考えます。 病理的な歯周組織の反応だけでなく、プラークがたまりやすい原因は、生活の中に潜んでいます。溜まったプラークにだけ注目するのではなく、その背景にある生活や、食生活にも注意を向ける必要があるのです。食事の好みや、飲食の頻度や内容などを聞く中で、そのような食生活になりやすい生活環境を浮かび上がらせるのことが必要です。ブラッシングの程度も含めて、生活習慣のなかでの問題をみつけていく必要があるのです。 甘いものは上手に食べればよいのですが、ついつい食べ過ぎてしまうのが『甘いものの誘惑』です。何をどの程度にすることが上手に食べることなのでしょうか。近年、メタボリックシンドロームが医療界で話題になっていますが、その多くの研究が食べすぎで末梢の循環障害が起きることを報告しています。歯周病もその意味で同じような病態が起きているかは、これからの研究待ちですが、肥満や糖尿が歯周病に絡んでいることは多く報告されています。 現在、歯科治療の成果を口腔内に長く維持させるためには、食生活指導はこれからなくてはならない分野と思われます。歯科も食育の一翼を担うことが大切です。
『“食育”は歯科医療を変える』 クインテッセンス出版株式会社 丸森 英史 より
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